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映像四郎の百人斬り

映像四郎の百人斬り

「A子劇場」

「A子劇場」



 「地下鉄A子ちゃん」は、

 携帯の向こう側で、泣いている。

 やっぱ、我慢していたみたい。

 杖なしでは、すでに、歩けなくなっていた。

 難易度200%な脊椎手術の不安もある。

 「霊能力者」の仲介者である、

 マッサージ師には、ラポート成立による、

 恋愛感情も抱いている。

 だんなが、出張から、まだ、帰ってこない。

 不安が、ピークに達している。

 膨れ上がった不安は、安定を、求めて、

 マッサージ師へと、傾く。

 正しい、正しくないではなく、

 基準は、不安の受容のみだ。

 全身麻酔で、内臓を、脇に取り出した上での、

 腫瘍の除去および、ボルトによる補強手術。

 心臓のバイパス手術、もしくは、それ以上に、

 難易度が、高いらしい。

 除去によって、神経が寸断された場合、

 下半身が、動かなくなる。

 爆発物処理並みの「配線」への繊細さが、

 求められる。

 しかも、「精神的ウイルス」が、侵入している。

 「ラポート=信頼」は、理性を、飛び越えて、

 無検閲で、「A子ちゃん」の中枢に、

 歪んだ「フィクション」を接木していた。

 中枢とは、ココロの中の、一番よわくて、

 一番きれいで、一番やさしい、

 いわば、「良心」と呼ばれる部分かもしれない。

 「ウイルス」は、歪んだ回路を形成し、

 歪んだ「フイクション」に対しての、

 「呵責機械」として、機能している。

 睡眠薬を、飲んでも、「霊能力者事件」から、

 一日一時間しか、眠れない。

 熱も出ている。

 おそらく、「A子ちゃん」の精神的免疫機構が、

 深層下で、「ウイルス」と闘っているのだろう。

 しかも、その間、だんなさんの長期出張という、

 人的交流の空白期間が、重なってしまった。

 善意によって、間違ってる人種は、

 時に、悪徳商法以上の、被害を撒き散らす。

 現代人に与えられた「自由」には、

 「間違う自由」まで、含まれている。

 だが、ここで、「A子ちゃん」に、

 間違える必要なんてない。

 「A子ちゃん」は、ひんひん泣いてる。

 最近、元気そうだったが、

 それは、結局、表層だけで、

 深層は、嵐だったようだ。

 「A子ちゃん」には、

 「元気?」ときく、

 挨拶が禁句だった。

 自称「重度な欝」である「A子ちゃん」にとって、

 「元気?」は、さらなる「欝」へと、叩き落す追撃に、

 ほかならないそうだ。

 「調子は、どう?」

 「A子ちゃん」は、揺れている。

 自分が、「ぴくぴく」にはまるとは、

 思ってもなかったと嘆いている。

 恥ずかしいし、なかなか、「ぴくぴく」関係のことでは、

 話が通じないから、友達にも、相談できないらしい。

 どっちが正しいか、わからなくなってる。

 外部「テクスト」として、真偽を判定できる位置にではなく、

 いわば、「ぴくぴく」は、網膜に、寄生する。

 つまり、外界は、「ぴくぴく」的に、網膜を通し、

 脳内に、映写されてしまうのだ。

 「認識」という人間の基本的「OS」を改変し、

 「ぴくぴく」は、頭の中を。

 「自分の劇場=ドグマ」に仕立て上げてしまう。

 だんなは、今、空港についたが、

 打ち上げで、酒を飲んでいる。

 すぐに、駆けつけて、ほしかったのに、

 「このままじゃ、だんなと別れちゃう」

 いつもなら、バカバカしくて、聞く耳もてないが、

 今は、事情が、違う。

 「ぴくぴく」が、うごめいている。

 「霊能力者」は、悪しき予言を果たした。

 父母が死んだことも、

 愛犬に遺伝病があるのも、

 自分の脊椎の病気も、

 全て、「A子ちゃん」のせいで、

 このままだと、手術も、うまくいかなし、

 だんなとも、別れることになる。

 マッサージ師が、どんなに、やさしかろうと、

 最終的に、これだけの否定語を、浴びせてくるなんて、

 「A子ちゃん」のことを、考えてるとは、いえない。

 しかも、問題は、接触を拒否している現在、

 現実のマッサージ師に、問題があるのではなく、

 「A子ちゃん」の頭の中に棲みついたマッサージ師に、

 問題がある。

 しかも、わがまま「A子ちゃん」は、自分の思い通りに、
 
 だんなが、動いてくれないと、激怒してしまうのだ。

 予言の成就に、怯える「A子ちゃん」。

 そして、大変なのが、理性的に、説得しても、

 効果がないということだ。

 理性語で、語ると、瞬時に、距離を把握して、

 「A子ちゃん」は、ココロを閉ざしてしまう。

 多重人格で、ただでさえ、ややこしいのに、

 ややこしさに、輪をかけてしまう。

 入院までに、変な悪夢は、殺虫したい。





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